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増補新版

切手帖とピンセット

1960年代グラフィック切手蒐集の楽しみ 

 

写真・文/​加藤郁美

発行/国書刊行会

装幀/祖父江慎+福島よし恵

 

刊行/2014/2/25

判型/四六判

総頁/192ページ 全頁カラー

収録切手/1234枚

定価/本体2200円+税

前口上→

もくじ→

​造本→

全頁プレヴュー→

​書評ほか→

 

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ほしい切手が蒐まりだすと、職業柄「切手をいちばん生き生きと見せるブックデザインってどういうものだろう?」と考えるようになりました。はじめは普通するように、スキャナーをかけてページに並べていったのですが、どうもフラットで味気なくなってしまう。インキが光沢を失い、紙も毛羽を失って…まるで使用済み切手のように生気がなくなってしまうんでした。


ヴィジュアル本をつくるときは、扱う対象にふさわしいページ・フェイスをつくりださねばなりません。そして切手や絵葉書、ポスターなど、それ自体が特殊かつ完成されたデザイン・フォームをもつ物を扱うとき、それらをブック・フォームに収めることはじつはたいへん難しいのです。


だからいつしか「祖父江慎さんだったら、切手の本をどういうふうに作るだろう?」と思うようになりました。これまで切手というデザイン・フォームと本というデザイン・フォームをはっきりと意識して作られた本の見たことがなかったので、常にその物がもつデザイン的本質をくっきり意識し研究して本づくりをなさる祖父江慎さんのデザインによる切手の本というものが見てみたくてたまらなかったのです。「切手の本を出したい」と、「祖父江さんデザインの切手の本が見たい」はじぶんのなかで等価になっていたので、「切手帖とピンセット」のブックデザインを祖父江慎さんにお願いできたとき、ほんとうに嬉しかったでした。…そして今このように本が姿をあらわし、言いようもないよろこびを感じております。祖父江さん、福島さん、ほんとうにありがとうございました。


それでは、これより「切手帖とピンセット」の造本構成をご説明させていただきます!

●カバー・ジャケット

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このカバーは、モナコ公国発行の「切手展示会1963」のFDC(初日カバー:切手の発行日に、そのために準備された封筒に切手を貼り、初日消印を押してもらうもの)1枚をそのまま拡大したものです。切手帖を開いて楽しそうな少年少女を描いた凹版切手と、同じ絵柄を図案化した初日消印、そして封筒には60年代らしいポップなイラストがあって、この本のなかみが見事に集約されている1枚。最初からこのFDCをカバーに選んでらした祖父江さんの慧眼おそるべし。
このFDCは本文中にも収録されていますが、半世紀近く前に出された1枚の古びた封筒と、このカバー・ジャケットを見較べるならば、元の封筒の60年代らしいおおらかさが十全に生かされつつ、さらに2010年の新刊にふさわしいスマートなデザイン処理がなされていることにびっくりすることと思います。

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オビをはずすと、別紙を貼り付けた宛名書き、郵便屋さんが書いたとおぼしき鉛筆の「5」など、異なる紙の質感や文字書体がかさなって、郵便物というものの情報の多さが全開なのでした。

 

 

 

●表紙 (製本がまだなので、抜き刷りを巻いています)

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カバーを外すと、さらに4色刷りの表紙が!なんと贅沢な!
表のイラストは1966年フランス発行の「切手の日」初日カードです。フランスは原寸大(!)で彫刻する精緻な凹版印刷切手の発行を長く続けた国で、この切手とカードには、切手調版に使う特殊な彫り刀「ビュラン」を使って原版を彫る調版師の手元が描かれています。

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裏表紙は…きました!ソビエト宇宙開発時代のライカ犬切手、「スプートニク5号」(1960年発行)です。本文には不思議なかたちの宇宙船やこれで行ったんかい!的四角いコンピューターなど宇宙切手も満載。

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しかし!いちばん贅沢なのは、この製本方式。昔の児童書などに背の部分だけ布地を貼り合わせた本をご記憶の方もおられるかと思いますが、今回は祖父江さん命名するところの「なんちゃって布貼り背製本」をしました。ヴィヴィットな赤の別紙を印刷したコート紙の上から貼っています。そしてスピンもちょっと変わった「木馬」のリボン(出荷時リボンのはさまった頁に少々あとがつきますが、どうぞおゆるしを!)。製本方式はノドがよく開くホローバック、挿み紙はグラシン紙です。
 


●本文フォーマット その1 「デスクトップ」

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さて、いよよ本文です。本文のページ・フォーマットは4種類。「デスクトップ」「切手帖」「ばらまき系」「コラム」です。まずはデスクトップ(って机の上で撮っただけです。スミマセン・笑)。切手の色に合わせて色の調整をしていただいてあるので、机の色は少々ヘンですが(トホホ)、切手の色はひじょうに正確です。
キャプションは全ての切手の発行国・発行年・セット組枚数・タイトルが記載されています。調べてゆくと「そんな切手だったのかあ!」という歴史文化の情報が詰め込まれていて、それをチキチキ書き込んでいくうちに紙面が爆発し、入稿直前に本の天地を10ミリ延ばすということになってしまいました。

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●本文フォーマット その2「切手帖」

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「切手帖」フォーマットです。切手帖に並べて上から一発撮りしました。方法は野蛮だけどしあがりは端正。昔からハサミと糊を使ってチョキチョキペタペタ編集作業をするので「ハサミ編集者」と呼ばれておりましたが今回は「ピンセット編集者」でございました。切手の重なり具合やグラシン・ポケットの質感をお楽しみいただけるとうれしいです。 このページはスウェーデンの凹版切手。

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「民族衣装」ページ。ちなみに左右のページのグラシン・ポケットの幅がちがうのは、拡大率が異なるのではなくて、元の切手帖がそうなのです。結構いい加減に作られているんでありました(笑)。

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「博物学」ページ。放散虫切手…。
 


●本文フォーマット03 「ばらまき系」

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「スウエーデンのフォークアート切手」ページと「極地に生きる人々」ページ。月兎社サイトでもおなじみの、趣味のオモチャどもが多数参加。今回は切手をさがしてさまよっていてみつけたトボケたヒトたちが多くなっています。この2見開きは本人フェバリエット頁です。

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●本文 その4 「コラム」

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博識で知られる先生方のコラムです。切手以外のグラフィックも取り入れ、歴史文化を大きなパースペクティブで提示します。
 


●ノンブル&オビ袖

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全ての左頁の端は切手帖の縁布で統一されています。ノンブル書体は手押しはんこ風で、位置もバラバラ。

カバーとオビに、割り印のように消印が刷られています。ともに祖父江さんのおちゃめディテール!

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ラスト、背表紙のオビには執筆いただいた先生方のお名前が堂々と。
いまや版元勤めをやめて、重厚人文書を編集することのかなわぬ身になってしまいましたが、今回珠玉の御原稿をいただいて初読させていただいたとき、やっぱり文化史っていいなあ、と心ふるえるものがありました。先生方、ほんとうにありがとうございました。
 



この本を刊行してくださった国書刊行会さん、企画を通し、担当してくださった萩原玲子さんに深く感謝します。印刷のシーフォースさん、製本のブックアートさん、丁寧なお仕事ありがとうございました。
そしてこの本に収録されている切手をあつめていたとき、見付けてきた切手をともに愉しみ、月兎社サイトで購入してくださったみなさんにも心から感謝してます。みなさんのパトロネージがなければ、この本はできあがりませんでした。ありがとうございました!

加藤郁美

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